見ていて魂がべりりとはがれるような、光景なのだ。
ふわふわとさまよう、儚い光は、あまりにも頼りなく
それでいて、どこか強烈な強さをもち、どこにむかうともなく光る。
それが、つっと上にむかう。
消えながら、ゆれながら、上へと向かうその光は
さまよえる魂の浄化と昇華を思わせる。
以前、一人で見上げていたときに、
あまりに美しく、厳しく、寂しさに心が削り取られるような思いをした。
見てはいけないものを、見上げているようなそんな気持ちがした。
今回は、その光景を知人にみてもらいたくて案内した。
肌寒いくらいの風に異界の厳しさを感じてか、
やや緊張気味の表情をみせていたその知人は、
群れなすややみどりがかった蛍光に歓声をあげ目を輝かす。
そうだろう。
蛍は、見事だ。
見てほしかったのは、厳しく美しい浄化へ向かう魂の様相、
それをまったく同じ言葉で口にする知人に
見てもらいたかったものをすべて見てもらえて、ほっとした。
案内してよかった、ではなく、平安を得た。
おそらく、再び、魂が浄化されるかごとくの蛍の飛翔をみても、
私の心は平安のうちにいてられる。
あまりに美しい光景や体験は、心を掻き毟る、と、昔、別の知人がいっていた。
魂を掻き毟る光景を、寂しさを、一人で全身で受け止める記憶に重ねて
その美しさを他人と共有することができたという記憶を、得た。
深く深い闇の中にゆったりと身をゆだね、ゆっくりと沈んでいくような
そんな平安を得た。
すべてのものは回帰する。
そこは見えないが、回帰する途中にあるのだろう。
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それでいてここに歓声は回帰しなかったよ。